2021年01月17日12時00分
「原石のように磨きがいがある人の応募を待っています」―。今年創立70周年を迎える邦画大手の東映が、次代を担う脚本家の育成を目的に芸術職研修契約者を募集している。
過去の採用者にはプロとして独り立ちしたライターもおり、ドラマや映画などの脚本で腕を振るう。シナリオ学校とは一線を画す映画会社ならではの実践を伴った育成方法が、即戦力の才能を生み出すことにつながっているようだ。
同社による芸術職研修契約者の募集は2003年にスタートし、今回が5回目。3部門(脚本家職、プロデューサー職、助監督職)をアトランダムに募集する形式を取ってきたが、脚本家が対象になるのは今回が4回目。契約期間は今年4月から3年間で、採用者はドラマや映画、配信番組の現場を経験しながら、シナリオ作りのノウハウを学ぶ。
もともと同社は1950~60年代の邦画全盛期に芸術職採用を行っており、工藤栄一、深作欣二といった名監督や、笠原和夫、高田宏治、松田寛夫らの名シナリオライターを世に送り出した。募集を発案した故岡田裕介社長(当時)には「その現代版を」との思いが強かったようだ。
同時に「慢性的な書き手不足」を解消したいとの意図もあった。同社の場合、映画だけではなく多数のテレビドラマも制作しているが、いわゆる「書ける」脚本家の大半は多忙で、連続ドラマのペースに対応できる人材探しは困難を極める。
「科捜研の女」や「仮面ライダーW」などのチーフプロデューサーを務めた東映の塚田英明テレビ企画制作部長は「スキルを持ちつつ、われわれプロデューサーとちゃんとした人間関係を築ける脚本家との出会いの場を育てる必要があった」と語る。
エントリーは1月25日、オリジナル作品の企画書などの書類提出は同28日まで。書類選考、1次選考(課題を与えたプロットなどの作成、面接)、最終選考(面接)を経て、3月中に合格者を決定。塚田部長は「僕らの刺激になってくれる人材を望んでいる。選考ではアイデアの面白さやセンスを重視します」と言う。
過去3回の脚本家職募集では女性8人、男性1人が採用され、03年の1期生からは映画「3月のライオン」やドラマ「相棒」「科捜研の女」などを手掛けた岩下悠子や「黒子のバスケ」「ゴールデンカムイ」などのアニメ作品で知られる入江信吾といった人気脚本家が巣立った。
昨年春に契約期間が終了した3期生の金子香緒里、吉原れい、下(しも)亜友美もそれぞれシナリオライターとして独り立ちを果たし、塚田部長は「今は誰もが挫折しやすい世の中だが、皆が無事に務め上げて活躍してくれているのはありがたい」と喜ぶ。
◇3年の契約期間中にデビューも
採用者は、契約社員という形で年俸(300万円)を保証され、まず合同で研修を受ける。最初の課題は「科捜研の女」「相棒」といったドラマや特撮ものなど、東映が関わる看板番組の脚本の執筆。当然、映像化は前提としていないが、下亜友美は「荒療治というか、いきなり現場に放り込まれる感じでした」と苦笑交じりに振り返る。
さまざまな番組の執筆を一通り経験した後は、それぞれの適性なども勘案しながら、各番組のプロデューサーと組んで脚本作りに取り組む。その後は本人の努力次第。良い脚本が書ければ採用されてシナリオ料も別途支給されるという仕組みだ。
「いわば東映所属のフリーのような立場になる」と塚田部長。作品化の可能性も秘めた研修は、テクニックの勉強だけに陥りがちなシナリオ学校などにはない大きな強みだ。
契約期間中に「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」でプロデビューし、その後もスーパー戦隊シリーズを手掛ける金子は「予算などの枷(かせ)がある中で面白いものを書くというノウハウが養われた」と話す。現場を知った上での物語作りはプロ意識の向上に大いに役立っていると言えるだろう。
「科捜研の女」「刑事7人」などに関わるようになった吉原は、研修を通して「脚本は1人で書くもの」との考えが変化したという。「実際にはチームプレーで、プロデューサーさんたちと意見を交わしながら作っていく。コミュニケーション能力が大事だと分かりました」。プロデューサーの勧めで、縁遠かった刑事ドラマを執筆するうちに「相性の良さ」に気づく意外な発見もあったと明かす。
過去3回の募集では、累計で1741人から応募があった。合格しても、研修期間中は「徹夜の連続」を余儀なくされるなど、その道は決して平坦ではない。
下は「これが面白いと思うなら、脚本家なんてやめてしまえ!」と叱責され、へこんだこともあったと言うが、「すごく打たれ強くなった。できたときはきちんと褒めてくれる。会社の研修ゆえの良さなのかなと思います」。契約期間中から「刑事ゼロ」などの東映作品に加え「大江戸スチームパンク」といった他社作品も手がけ、現在は金子、吉原同様、フリーとして幅広く活躍する。
3期生3人の合格前の前歴は、金子がテレビ関係、吉原はウェブライター、下は小劇団主宰と全く異なる。塚田部長は「いろんなバックボーンの人に集ってもらい、今までの東映にはなかったような作品につながるプロデューサーとライターさんの関係が生まれるのが理想」と話す(時事通信社編集委員・小菅昭彦、撮影・入江明廣)。 ![]()
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