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Wednesday, March 23, 2022

〈続・伊達なジャズ喫茶7〉「音量上げて」声かかるのを待ちながら…宮城県大崎市・カフェ・パーシモン - 読売新聞オンライン

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 伊達家の分家の城下町として栄えた宮城県大崎市岩出山地区。藩政時代の学問所、隠居所だった「旧有備館」のほど近くに、カフェ・パーシモンはある。大正ロマンを感じさせる和洋折衷の店構えで、地域の人々が集い、観光客が憩う、いわゆる「雰囲気のいいカフェ」だ。

 マスターの土屋行雄さん(73)はカウンターの向こうで温度や時間をキッチリ計った「基本に忠実な」コーヒーをいれる。「コーヒーの味はアドリブなしでやっています」という言葉が軽いシャレであることは、少し後に気付いた。

 吹き抜けのある広い室内に巨大なスピーカーが二つ、家具か調度品かのように置かれ、目の肥えた音楽ファンを驚かせる。会話を (さえぎ) らない程度に控えめなジャズが流れているが、土屋さんは「本当は『音量上げて』と言ってもらうのを待っています」と話す。店の正式名称は「楽音所 カフェ・パーシモン」。おいしいコーヒー、いい音楽。心地よい空間の条件がそろっている。

 店は2016年、土屋さんが勤め先の会社を定年退職した後に開いた。自宅は店から車で1時間ほどの岩手県一関市にある。「実家は山形県で、岩出山はちょうど自宅と山形の間くらい。有備館の近くで、商売をやるには場所もいい」とここを選んだ。かける音楽はジャズ8割、クラシック2割。時々、ライブもやっている。

 第二の人生にジャズ喫茶を選んだのは、昔からのオーディオ好きが高じてのこと。30年ほど前にマイホームを建設中、今では買うことができない、米JBLの希少なスピーカーを手に入れた。自宅で一人、趣味で楽しむだけではもったいないと常々考えていた。自宅がある一関市といえば「日本一音がいいジャズ喫茶」とされる「ベイシー」があり、目標とする場所でもあった。

 飲食業は初めてで、料理教室に通い、東京・銀座の有名店でコーヒーのいれ方を学んだ。店は宮大工に建設を依頼し、木をふんだんに使った。筋金入りのマニア気質からか、音響も、快適な空間も、妥協しない店ができた。ただ、「ジャズ特有の気むずかしさを提供しようとは思っていない」と土屋さん。誰もが気軽に音楽を楽しめる場所を目指している。

 一方で、毎日のオーディオ機器の調整は欠かさない。米ジャズピアニスト、ビル・エヴァンスの名盤「エクスプロレイションズ」が流れ、気の利いたアドリブが店内に程よい緊張感をもたらしていた。「いざという時に、ど迫力でキチッといい音が出るようにしておかないと」。きょうも「音量上げて」と声がかかるのを待っている。(読売新聞東北総局 鶴田裕介)

【メモ】宮城県大崎市岩出山上川原町7の7。水曜、木曜定休。090・8785・8460

※この記事は、2021年11月19日から12月2日にかけて読売新聞宮城県版に掲載した連載記事に加筆・修正したものです。冬の特別編として、7回に分けてお届けしました。

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