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通訳ガイド・細川治子
香川で暮らし始めてちょうど10年になる。私が感じる香川の魅力の一つに、瀬戸内国際芸術祭がある。通称は瀬戸芸(せとげい)。今年は3年に1度の開催年にあたり、14日に開幕した。毎回200あまり展示される現代アートの作品を訪ねて、瀬戸内の島々を渡り歩く行為は、巡礼に似ている。ゆったりした島時間に身を委ね、「非日常」を楽しむのだ。
2010年の第1回は、県外から瀬戸芸を見に来た。その後、朝日新聞高松総局に異動し、取材する側になった。前回19年はガイドとして、海外メディアを案内した。今回も関わりを持ちたいと思い、作品制作や運営を手伝うサポーター「こえび隊」の活動に参加することにした。
開幕前の平日、高松港から船で約20分の女木島に向かった。こえび隊スタッフの石賀香里さん(42)や、県内外から来た女性3人が一緒だった。帆船をイメージした既存の作品に、新しい帆を張る仕事が待っていた。石賀さんの指示のもと、ロープで帆をつなげるのだが、不器用なのでてこずった。
すると、どこからともなくベテランの漁師さんたちが現れ、作業を手伝ってくれた。長年漁網を繕ってきた手から、美しい編み目や結び目が繰り出される。2本のロープの端を編み込み、つなぎあわせる編み方に見入っていると、「『さつま』っていうんや」と教えてくれた。
無事に帆がつながった。みんなで帆をマストに引き上げながら、「お祭りみたいだな」と思った。共同作業をする一体感、お年寄りから伝授される知恵――。私が生まれ育った東京の街には祭りらしい祭りがなく、地域のつながりも希薄だった。だから、この日の体験がとても新鮮だった。
「島の人には、たくさんのことを教わっています。島ごとにちらしずしの味も違うんですよ」と石賀さん。15年から女木島と隣の男木島の担当になったという。行事に積極的に参加して、島の暮らしに寄り添ってきた。「島の人との交流がないと芸術祭はできない。会期外の活動こそ大事なんです」と力を込める。
瀬戸芸はアートを媒介に過疎の島の交流人口を増やし、「島のおじいちゃん、おばあちゃんを元気にしよう」と呼びかける。一方、元気なお年寄りとの交流で来島者も元気になる。こんな好循環が生まれていることが、瀬戸芸ファンが増えている要因ではないかと思う。
こえび隊は、前回8千人に達した。外国人が半分を占めたが、今回はコロナ禍で来日できないため、人手が足りないという。元気をもらいに島通いをしてみませんか。(通訳ガイド・細川治子)
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