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Saturday, November 5, 2022

家族の“最後に抱っこがしたい”想いをかなえる、赤ちゃん用の棺「まゆのゆりかご」を知る - Esquire(エスクァイア 日本版)

tunggusama.blogspot.com

私の祖母は病院や施設の入念なコロナ対策もあって、約1年も家族の顔も見ないまま他界しました。会えない期間が長かったこともあり、納棺式で対面するまで実感が湧きませんでした。福島にある祖母が住む家に着くまで、いつものように祖母が家の前にある庭をいじりながら、私たちが来るのを待っていてくれている姿を想像してすらいたのです。家の中に入ると、祖母のにおいが残っているものの部屋の中の雰囲気は異なり、ベッドの中で冷たくなった祖母と向き合ってようやく実感しました。

納棺師の手により死化粧が施され、家族の手で棺に納められました。通夜の前に行う納棺の儀では、故人の旅立ちに向けた身支度を行い、遺体とともに副葬品と呼ばれる死後の世界で過ごすための品や思い出の品を棺の中に納めることなどをします。家族だけで故人をゆっくりと囲める最後の時間です。

お葬式は残された人にとっても必要な儀式

通夜、告別式、そして火葬とひと通りの葬儀が終わり、遺骨とともに家に戻ったとき、最初に家に着いたときとは異なる感情になっていました。心のつかえが取れ、それまで暗い気持ちから目を背けるように、家族と祖母の話ができなかったにも関わらず、葬儀の後は「おばあちゃんは干し芋が好きだったね」などと思い出話をして向き合えるようになっていたのです。葬儀とは死者のためのものであると同時に、残された者たちにとっても必要で大切な儀式の一つなのだと強く認識しました。

人の死に直面したとき、誰もがその辛く悲しい出来事をすぐに乗り越えられるとは限りません。ですが、「直接故人と向き合える最後の時間の過ごし方が、その後の私たちの心や生活にも大きく影響する」と私は思うのです。

話は変わりますが、祖母が亡くなった同じ年に私は結婚をしました。結婚を機に、将来授かるかもしれない子どもについても考えたわけですが、祖母が亡くなったこともあり、人間の「生」と「死」について改めて考えることになりました。新たな「生」を受ける一方で、「死」という可能性もあるということを…です。それが私なのか家族なのか、生まれてくる子どもなのかわかりませんが、遅かれ早かれこの不安定な時代にどんな出来事が起きるのかわかりません。悲観的になっているわけではなく、この情報があふれる時代だからこそ、“もしも”に備えて有益な情報を知っておきたいという気持ちになったのです。

そうして出合ったのが、千葉県船橋市にある仏具店「Bee―S」が展開する、死産や流産で亡くなった赤ちゃんのための棺「まゆのゆりかご」です。


「『もっと早く知りたかった』という言葉をいただいたことは、何度もあります。多くの人にこうした選択肢があるということを知っていただきたいです」と話すのは、ガラスの仏具店「Bee―S」を営む住吉育代さんです。

「bee―s」を運営する住吉育代さん。
「Bee―S」を運営する住吉育代さん。

Cedric Diradourian

「Bee―S」では、子どものための“かわいい”ガラス製の仏具を展開しています。住吉さん自身、長女の花彩(はいろ)ちゃんを生後8カ月で亡くされ、花彩ちゃんをイメージしたオリジナルのガラス製の仏具をつくったことをきっかけに、2010年に同店を開きました。

「私自身、子どもを亡くしたときに『花彩に何かしてあげたい』という気持ちでいっぱいでした。そんな気持ちで、このガラス仏具をつくりはじめました。私の娘は神様や仏様になったわけではなくて娘は娘のままですし、彼女らしいものをつくりたい…そう思ったんです。そうしてたどり着いたのが仏具でした。お店に来ていただく親御さまも、大切なお子さまを想って彼・彼女らしい仏具をオーダーされる方が多いです」と、住吉さんは話します。店内には色とりどりでさまざまなデザインの香炉、火立、線香立、花立、仏飯器、茶湯器などが飾られています。

そんな同店で際立った存在なのが、2021年11月に発売開始された赤ちゃんのための棺「まゆのゆりかご」です。

「bee-s」の店内にディスプレイされている、ガラス製の仏具の一部。
「Bee-S」の店内にディスプレイされている、ガラス製の仏具の一部。

Cedric Diradourian

「まゆのゆりかご」誕生の経緯

「ガラスの仏具をつくる過程で出合ったのが、貴金属や紙、ガラスをつかったジュエリーデザイナーの大川七恵さんでした。大川さんと、仏具のひとつである火消しを制作しているときのことです。お客さまから『子ども用の棺が味気なくて、子どもが可哀そうだった』という話を聞いて、大川さんに既存の棺を見せて『何かつくれないか』と、相談したんです」と住吉さん。

従来の死産や流産で亡くなった赤ちゃん用の棺は、厚紙でできた小さなお菓子箱のようなものや、留め具がたくさんついた桐箱のようなものが多いのが現状です。そこで、2人が棺について話し合ったときにすぐに思ったことは、「赤ちゃんを最後まで抱っこしたい」ということでした。「自分の子どもを最期に、この紙箱のようなもので寝かせるのは可哀そう。もっとかわいいところに居させてあげたいし、お母さんには抱っこしてほしい。何とかならないかなと考えました」と、大川さんは話します。

ジュエリーデザイナーの大川七恵さん。
ジュエリーデザイナーの大川七恵さん。

Cedric Diradourian

事実、流産や死産そして生後間もなく亡くなってしまった赤ちゃんを、抱っこも、触れることすらできないままお別れを告げなくてはいけない家族も少なくありません。また、赤ちゃんの皮膚が弱いことに加え、その小さな身体を崩してしまいそうで怖くて抱くことができない人もいます。「せっかくお腹に来てくれた赤ちゃん。出会えたからには、そこに大きな喜びがあったはずです。母親や父親になれたのに、抱っこもできない気持ちを想像したときに、あまりにも悲しすぎたんです。また、胎児を抱っこするのはとても難しく神経も使うはずです。そんなストレスを少しでも和らげてくれるものをつくりたいと思いました」と大川さん。

そうして誕生したのが、「まゆのゆりかご」です。見た目の通り、カイコのマユのような形をしており、パルプモールド技法で水に溶かした和紙でつくられています。中は、シルク製のベッドになっており、実際に抱いてみると軽くて、ふわっとした手触りの良い質感です。内側は天然の大豆ろうで蠟(ろう)引きされており、保冷剤とともにご遺体を納めることができ、火葬の直前まで抱っこすることができます。また、前述のような金属製の留め具なども一切ついていないため、火葬の際にも有害な煙がでることはありません。サイズはSサイズ~LLサイズまで展開があり、およそ身長40cm、体重1500gの赤ちゃんまで納めることができます。

そんな大川さんですが、子ども用の棺を販売するにあたって最初は抵抗があったと言います。「お子さんを亡くされたご家族の一助になればという気持ちで製作しましたが、販売すればこれでお金を儲けることになりますから…。でも、いざ完成したら喜んでくださる方々がいらっしゃったんです。それで、悲しみの中にも小さな喜びをつくることはできるんだと思い、販売を決意しました」と大川さん。

千葉県船橋市にあるガラスの仏具店「bee―s」で販売されている赤ちゃん用のひつぎ「まゆのゆりかご」
性別も判明しない段階で命を落とす赤ちゃんもいます。そんな子どもたちを想い、まゆの色はレインボーカラーで彩られています。

Cedric Diradourian

最期に我が子にしてあげられること

住吉さんは自身の経験から、「悔いのない最期の時間を過ごしてほしい」と話します。

「『まゆのゆりかご』をつくっていくうちに、自分の娘のときはどうだったかな?と思い出したんですが、私は葬儀屋さんに言われるがまま選んだことしか覚えていなくて、それがどんなデザインだったかまで具体的に思い出せなかったんです。でも、四角くて味気ない箱だったことは覚えています。最後の時間を一緒に過ごすための大切なモノなのに、そのくらい存在感が薄かったんですね。もう10年以上前のことなのに、何も変わっていないことに驚きました。当時、私は娘を亡くしたときにこういったモヤモヤを誰かに相談することができませんでしたが、同じような気持ちを抱えている人が多くいることを今は知っています。仏具を買いに来られるお客さまやSNSなどで、『まゆのゆりかごをもっと早く知りたかった』、『文具店で買った箱にしてしまったため、後悔している』といった言葉をいただくんです。亡くなった赤ちゃんのために『何かをしてあげたい』と思ったときに、“棺”は初期段階で選ぶ葬儀品の一つですので…」

「棺や仏具にこだわることだけでも、今後の生活に影響を与えると思います。大切な人が亡くなったあとって、いろんな後悔が付きまとうものです。赤ちゃんの場合ですと、もっといろんな服を着せてあげればよかったとか、外を散歩させてあげたかったとか、ご飯を一緒に食べたかったとか…火葬までの何日間という短い間ですが、肉体があるうちに、生きているときにしてあげられなかったことをしてあげられる時間をつくりたい、そんな想いもこの『まゆのゆりかご』には込められています。最期の時間に抱っこをして、可愛いお洋服を着せてあげて、お花やおもちゃを持たせて…と、赤ちゃんを想い、向き合う時間を過ごすことでその後の心の波にも大きく影響すると私は思うんです」

「まゆのゆりかご」を制作・販売する大川さんと住吉さん

Cedric Diradourian

「もちろん、どんなものを選ぶのか、それは個人の自由です。それに、こうした道具たちは誰もが必要なものではありません。ただ、ご家族、親戚や友人など、いつ身の回りにこのような悲しい出来事が起こるかわかりません。そんなときに、『こういう選択肢があるんですよ』ということが一般的に情報として広まってくれたら、必要な人のところに必要なときに届いていれば良いと思っています。そのためにも、私たちは発信を続けています」と、住吉さんは話します。

故人と向き合う時間。祖母を亡くした私にとっては納棺や葬儀がその時間でしたが、赤ちゃんを亡くした人にとっては棺や仏具を選ぶことや、最期に着せてあげる服を選ぶことがその向き合う時間なのかもしれません。いくつもの後悔が浮かぶ人もいるでしょう。しかし、そこで自分を責め続けてはいけません。残された私たちにできることは、故人の存在を忘れないためにも、故人の話をすることではないでしょうか。

男性の悲しみは、ひとつ後の段階に

「Bee―S」には、お母さんは入院中や身体的にもダメージを受けているため、お父さん1人で来店される方が多いと言います。ですが、身体の中で赤ちゃんとつながっていたお母さんとは違い、お父さんは子を亡くした実感がわくのに時間差があるのではないでしょうか。

また、住吉さんはお店で多くのお父さんを見て、こう思ったそうです。「奥さんが手術などで身体的にも精神的にもダメージを受けて苦しんでいる様子を見て、『自分がそばで支えなくては』という気持ちと、『自分が動かないといけないと』という責任感が先行して、お父さんは悲しみに浸る時間がないのかもしれない…と客観的に見て思いました」。

そんな中で棺を選んだり、ベビードレスやおくるみを選ぶ時間は、お父さんが赤ちゃんのことをゆっくり考えられる時間でもあります。「ここで、奥さんとテレビ電話しながら、相談し合っているご夫婦もよくいらっしゃいます。悲しい気持ちの中でも、赤ちゃんのことを思って話合うご夫婦の悲しみの中にある小さな喜びをつくる、そんなお手伝いができて良かったと思います」と、住吉さんは言います。

千葉県船橋市にあるガラスの仏具店「bee―s」で販売されている赤ちゃん用のひつぎ「まゆのゆりかご」
「まゆのゆりかご」は一つひとつ手で形を整えながら制作されています。

Cedric Diradourian

最後に

赤ちゃんを亡くした経験は人には言いづらく、その辛さや苦悩について話されることはあまりありません。しかし、死産や流産、早期死亡は決して珍しいことではなく、厚生労働省によると、2020年には国内で約2万人もの人々がこの経験をされています。また、日本産科婦人科学会の公式ホームページでは流産について、このように報告されています。

「医療機関で確認された妊娠の15%前後が流産になります。妊娠した女性の約40%が流産しているとの報告もあり、多くの女性が経験する疾患です。妊娠12週未満の早い時期での流産が8割以上であり、ほとんどを占めます」

奇跡的に授かった命との急な別れに直面したとき、夫婦は限られた時間の中で棺を探し選択しなければならず…。それは、赤ちゃんと過ごすための短い時間を削ることにもなるわけです。日常を過ごす中で葬儀や仏具、死について話すことは、避けられがちな内容でもあります。ですが、「そうした情報を前もって知っておくことで、その限られた大切な時間を守ることができるかもしれない」、そんなことを多くの人に知っていただきたいと願うばかりです。

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