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宇宙船がたどったDRO軌道
今回は、先日地球に帰還した宇宙船「オリオン」の軌道について詳しく説明しましょう。
新開発の大型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」初号機から分離して月へ向かう軌道に乗ったオリオンは、図1のように、「クルーモジュール」と「サービスモジュール」が結合した構成になっています。クルーモジュールは、宇宙飛行士が乗るカプセルです。居住空間ですね。サービスモジュールは、かつて国際宇宙ステーション(ISS)への無人補給船として運用されていた欧州宇宙機関(ESA)の補給機(ATV)の技術を基に開発されたものです。オリオンの推進力となるほか、姿勢制御、クルーモジュールへの電力供給と温度管理、空気と水の供給も行います。
さて、軌道については図2を見てください。SLSで打ち上げられたオリオン(図2の(1))は、SLSから分離した後、月へ向かう軌道に乗りました((2))。そのまま行けば1972年のアポロ計画の時よりも遠くへ届く軌道ですが、途中でサービスモジュールのエンジンを噴射して減速し、月の重力に捉えられて月面からわずか130キロメートルまで接近しました。そして月の公転運動と重力を利用して軌道を大きく変更(スイングバイ)し((3))、タイミングを見計らって再びエンジンを噴射してDRO(遠方逆行軌道)に飛び込ませました((4))。DROの上((4)から(6)までの範囲)でいろいろなテストを行った((5))後に、またエンジンを噴射して、オリオンはDROから脱出((6))して月に接近しました。スイングバイ((7))して新しい軌道に乗り、タイミングを見てエンジン噴射し、地球を目指す軌道に放り込まれました((8))。その後は、細かく軌道修正を繰り返しながら、地球まで無事に帰って来た((9)、(10))というストーリーです。
クルーモジュールが地球大気圏に再び飛び込むと、大気との激烈な闘いが待っていましたが、カプセルを覆っている耐熱シールドは見事にそれに耐え、完璧な再突入のフィナーレを演じてくれました。以上の複雑な軌道操作を、地上局が鮮やかなお手並みでやり遂げました。
DROについて補足すると、この特殊な月周回軌道に乗っている探査機は、月の表面から遠い所にいるので「遠方」、ミッションを遂行している時間帯(図2の(4)~(6))に月と反対方向に運動しているので「逆行」の名が付けられています。地球と月の力の釣り合う点(ラグランジュ点)が近くにある影響で、軌道修正に必要な燃料が少なくて済むというメリットがあるのです。
さあ、こうして順調に滑り出したアルテミス計画――。米航空宇宙局(NASA)のこれからの取り組みが、楽しみになりましたね。
的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。1942年生まれ。
日本宇宙少年団(YAC)
年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac-j.or.jp
「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載開始。カットのイラストは漫画家の松本零士さん。
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