入店した瞬間、子どもたちの表情がぱっと明るくなる。視線の先には、10~50円の駄菓子がずらり。
「正直、原価割れのものもあるんだけど、喜ぶ顔がうれしくてね」
2023年10月、福島県富岡町に「駄菓子家あみこ」を開いた五味敏之さん(60)が目を細める。同年3月に横浜市の小学校教諭を早期退職し、単身、移住した。
きっかけは、東日本大震災から10年が過ぎた21年。宮城県気仙沼市のサンマ漁を題材にした教科書で子どもたちと学んだこともあり、「被災地の今を自分の目で見たい」と考えた。
津波の被害を受けた地域では建物や人々の営みが着実に復興していると感じた一方、東京電力福島第一原発事故の被災地では帰還困難区域に通じる道のあちこちで通行止めが続き、国道6号沿いに除染廃棄物を詰めた黒いフレコンバッグが山積みになっていた。「あまりにも『復興』が進んでいなくて、ショックだった」。以来、双葉郡が心にひっかかり、繰り返し訪れるようになった。
教員時代、「学校も家庭も苦しい」と打ち明ける子どもと何度も向き合った。退職後は「一人ひとりがありのままでいられる居場所づくりをする」との夢があった。双葉郡にまだ子どもは少ないが、遅かれ早かれ「居場所」は必要になるはず。夢の実現は新天地で、と動きだした。
お店の名前は、芥川賞作家今村夏子さんの小説で、22年夏に全国で公開された映画「こちらあみ子」にちなむ。周りになじめない主人公あみ子の行動が周囲の人たちを変えていくストーリー。「ラストシーンを思い出すだけで涙が出ちゃうくらい好きな作品。この場所で、どんな子も大切にするっていう思いを込めた」
店頭の駄菓子はあくまで会話のきっかけにする「アイテム」だ。将来的には、子どもたちが「家」のように安心して集い、自由に過ごせる場をめざす。「地域や子どもと信頼関係を築くことが第一。最終ゴールに向けて、焦らずゆっくり」
平日は午後から、土日は午前中から、子どもたちを出迎える。「今日はどんな子に会えるかな。毎日わくわくしながら待っています」(力丸祥子)
からの記事と詳細 ( 駄菓子「家」で待っているよ 元小学校教諭がつくる「居場所」:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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待っています
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